お天気に恵まれた、秋の昼さがり。
原宿駅を降りる。
ひとり。
時計を見る必要のない、自分だけの気ままな午後が始まる。
沢山の落ち葉が、風で、空を舞っていた。
「木の葉っぱが、黄色くなったら、
それは、ゆりちゃんのお誕生日が来るっていう合図よ。」
幼い時に、お母さんが言っていたセリフが、
お母さんの声で、聞こえてくる。
もうすぐ、24歳だ。
ひとり気ままにショッピング。
お腹がすいたので、カフェに入って、BLTを食べながら、
お母さんに電話をする。
「日記よんだわよ〜。また毒吐いて〜!誰も見てくれなくなっちゃうよ?」
「なんかね、毒吐いちゃうんだ、最近、すごく」
「J-WAVEの反動ね?」
「なんで分かるの?」
「そういうのが分からないと、教師にはなれないのっ!」
恋のこと、人生のこと、未来のこと、色々話して電話を切る。
アールグレーをすすりながら、かんがえごと。
お母さんって、すごい。
半年間、
J-WAVEの電波の上では、
私は「いいこ」でなければならなかった。
多くの人に聞いて欲しい“心からの言葉”が沢山、沢山あったから、
ラジオDJになったのに、結局私にはまだ、
それを発するための自由がなかった。
肩書きのある、偉い人が言えば、響くだろう言葉も、
大学生の女の子が言えば、ただの生意気だ。
人がお金を払って、自分の意思で買って読む雑誌や本と違って、
ラジオは、嫌でも耳に入ってきてしまうメディアだ。
リスナーに不快な思いをさせてはならない。
色んなシガラミが、そこにはあった。
それは、どんな大御所のDJだって感じているものだと思う。
その中で、どれだけ心からの言葉を届けることが出来るか・・・、
それが仕事だし、それを出来るのがプロだ。
でも、それに慣れない私は、
自分の持つ「毒」を殺して、「いいこ」な自分だけを出すことに、
当たり障りのない無難なコメント、愛想のいい相槌、
だけを繰り返すことに、
物凄いストレスを感じていた。
ラジオを聴いた友達には、
「いつものあんたの辛い本音はどこいったの?あれ、けっこういいのに」
といつも言われた。
「本音ばっかり出してられると思う?大先輩の番組で。
辛口出せるようになるには、
キャリアか肩書き、どっちかが必要なんだよ。」
私は、ため息をつきながら、そう答えていた。
私は、友達に、心からの言葉しか言わない。
(もちろん、相手を傷つけるようなことは言わないけど)
年上の先輩にも、本当に通じ合いたいと思ったら、敬語は使わない。
心からのコミュニケーションには、
建前も敬語も、邪魔だから。
人付き合いには、絶対に必要なこの二つが、
人が理解し合うのを邪魔するなんて、皮肉なことだけど・・・。
同録を聞くたびに、
「いいこ」過ぎる自分に吐き気がしてた。
毒がどんどん、自分の中に溜まっていった。
最終回、泣いたのは、
結局、
なりたい自分には、程遠い自分がくやしかったからだ。
仕事の上司に、
立場上、本音が言えなかったりするのと同じで、
自由な場所でしか、
言葉は羽ばたけない。
でも、
自由な場所なんて、本当はどこにもない。
自分の言葉には、きちんと責任を持たなくてはならないらしい。
責任を持つって、怖いし、重い。
考えれば考える程、
大好きな言葉たちが、発音されずに、自分の中で死んでいく。
私は、言葉を愛しているからこそ、
それが嫌だ。何より、ストレスを感じる。
子供の頃、私はずっと、大人が大嫌いだった。
大人が、子供の言葉を軽視するのが許せなかったから。
自分が大人になった時、子供を見下す最低な奴にだけは
なってはいけない、今のこの気持ちを忘れたくない、
そう思って、小2から、これまでずっと日記を書き続けてきた。
J-WAVEで感じたストレスは、
昔からずっと強く強く感じてきた、
私が一番敏感に反応してしまう種類のくやしさだった。
子供の私は、一刻も早く大人になって、
大人たちに、対等に扱われることを願っていた。
24歳。
まだ、大人は私の言葉を認めてくれない。
くやしいから、絶対に、いつか、
私は言葉を自由に羽ばたかせて、大人の耳に届けたい。
夜、
親友たちと集まった。
今のところ、あんたたちと、お母さんだけ。
私にとって完全に自由な空間は。
親友の1歳半の娘、彩華と遊ぶ。
「この前、色々あって、号泣してたら、
彩華がね、私のホッペを触って、濡れているって分かったら、
トコトコ歩いて、ティッシュを持ってきて、涙を拭いてくれたの」
親友が言う。
「子供ってね、天使なの。言葉がまだ喋れなくても、ちゃんと優しさを人に伝えられるの。お母さんが妊娠してるとき、ゆりちゃん凄い心配してくれたのよ」
お母さんが前に、そう言っていた。
愛情、優しさ、思いやり、
人は、ちゃんと持って、生まれてくる。
赤ちゃんは、みんな「いいこ」なのだ。
大人になるにつれて増していく「毒」は、どこからくるのだろう?
「いいこ」と「毒」を体に共存させながら、
私はこれから、どんなこと、話すんだろう?
まだ「毒」の意味も知らない、ANGEL彩華と遊びながら、
「彩ちゃん、喋れるようになったら、どんなこと、話すんだろう?」
って、楽しみに思った。
彩ちゃん、良かったね。
あんたのままは、私のお母さんと同じ位、最高だよ。